◇愛のエンブレム◇ 20

Mus.      ERO NAVIS AMORIS, HABENS TE ASTRVM LVCIDVM.

Fata regunt homines: blandi iunguntur amantes,

 Ipso (quis credat?) conciliante Deo.

Hic facit, vt, veluti magnetem Parrhasis vrsa,

 Ducat amatorem dulcis amica suum.

ムーサイオス 輝く星の君がいるから、僕は<愛>の船となるだろう。

運命が人間を支配している。恋人たちが気がひかれ知り合うのは、

 信じがたいだろうが、実は神ご自身が結ばせているのだ。

ちょうど大熊座が磁石を導くように、素敵な女性は

 男性を愛へと引き寄せるのだ。

愛の北極星

 一番偉い人から下々のあたりまで、

その人にぴったりふさわしい連れ添いが定められている。

それは、剛石(アダマント)が強く恋人の心を引きつけるようなもので、

ひとたび天と愛が定めたことは、自分ではどうにも変えられないのだ。


❁図絵❁

 アモルの手には六分儀が握られ、テーブルの上にはコンパスが置いてある。コンパスの針は北を指し、空には北極星が輝いている。きちんとした身なりで、細い髪飾りを優雅にたらす女性を、アモルはまるで磁針が北を指すようにじっと見つめている。

❁参考図❁

ヤーコブ・ファン・ロー(Jacob van Loo) 「愛のカップル」 1650年

 髪もドレスもきちんと整えた女性がアンカの上で脚を暖めている。一方、ズボン留めと靴下留めからもわかるように、ぱりっと決まった服装をしている男性は、まるで女性に引き寄せられるかのように、女性をじっと見つめる。男性は、女性の耳元で甘くて暖かい言葉を投げかけているようだ。結婚は親権者の意志で決まるが、結婚する男女の意志も尊重された。求婚は長い時間をかけて何度も会ってからが定石だった。


〖典拠:銘題・解説詩〗
ムーサイオス:小叙事詩『ヘーローとレアンドロス』(212行目)。レアンドロスは恋したヘーローに、自分は海峡を泳ぎ渡りヘーローのもとに通うので、ランプを持って塔に立ってくれと懇願するが、そのときのセリフ。

典拠不記載:参照「星は人間を支配するが、星を神が支配している」(astra regunt homines, sed regit astra dues)。

〖注解・比較〗
ムーサイオス:〔5世紀頃〕ギリシアの叙事詩人で、作品として残っているのは『ヘーローとレアンドロス』のみ。ギリシアの若者レアンドロスが毎夜、恋人であった女祭官ヘーローのともす灯りをたよりに、ヘッレースポントス海峡を泳ぎわたって、ヘーローの元に通った。しかし嵐の夜に頼りとする灯りが消え、レアンドロスは迷い、溺死してしまう。それに気づいたヘーローは、レアンドロスの後を追って海に身投げし自殺する。この物語は恋愛の深さとそれがもたらす悲哀を表現した話として、非常によく取り上げられた。16-17世紀にギリシア語・ラテン語対訳版や各国語への翻訳もなされ、イングランドでは劇作家クリストファー・マーロウーが翻案(1598年)を出版している。 
大熊座:北極星は小熊座の一部なので誤解と思われる。また方位磁針が北を指すのは、地球が巨大な磁石になっているためだということが、イングランド人ウィリアム・ギルバートによって発表されたのは1600年。それまでは、北極星が磁針を北に引っ張ると考えられていた。
剛石:アダマントとよばれた石は、ダイヤモンドのような固い石などをさした。ここでは磁石の意味。

:「紫の 雲にまがへる 菊の花 濁りなき世の 星かとぞ見る」(源氏物語 33 藤裏葉(ふじのうらば))。「紫の雲と似ている菊の花は、濁りのない世の中の星かと思います」(渋谷栄一 訳)。光源氏の息子・夕霧は、頭中将の娘・雲居雁と結婚することになる。頭中将は、源氏とともに雅楽『青海波(せいがいは)』を舞ったこと(7 紅葉賀(もみじのが))を思い出しながら、源氏が最高位である準太上(じゅんだいじょう)天皇になった姿を「星」と仰いでいる。女性を星にたとえている例は、万葉集、古今和歌集、源氏物語には見当たらない。なお、和歌中の「紫雲」は、仁政で名高い、中国の名皇帝・(ぎょう)が生まれたときの瑞兆(ずいちょう)


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