◇愛のエンブレム◇ 29

PERPOLIT INCVLTVM PAVLLATIM TEMPVS AMOREM.

Vrsa nouum fertur lambendo fingere foetum,

Paullatim & formam, quae decet, ore dare:

Si dominam, vt valdè sit cruda, sit aspera, amator

Blanditijs sensim mollit & obsequio.

時間がたてば、(つや)のない愛も少しずつ洗練されていく。

雌熊は生まれたばかりの子をなめて形にし、少しずつ

 口を使ってふさわしい姿を作り出していくといわれている。

愛する男も、(あるじ)たる彼女がたとえひどく手荒く、冷たくとも、

素敵な言葉や気の利いた応対をして、しだいに彼女の心を和ませる。

愛は時と共に作られる

 仔熊は生まれたてには、肉の塊にしかみえないものだが、

熊は仔熊をなめて熊らしくしてやる。

同じく愛も、はじめにどんなに奇妙で形のないもののようであっても、

やさしい愛の技によって形となっていくのだ。


❁図絵❁

 森から出てきた母熊が道ばたで、生まれたばかりの仔熊をなめて熊の姿にしようとしている。その仕草を、道の反対側でアモルは膝をつき、弓で顎を支えながらじっと見守っている。

❁参考図❁

ピーテル・ファン・スリンへラント (Pieter van Slingelandt)「ペット犬をもつ女性」1672年

 女性は歌(おそらく恋歌)を歌うのをやめて犬を抱いている。ヴァオリンを弾く手を休めた男性は、女性に近づき、犬をうらやましがっている。こうした社交的な形式をゆっくりと踏みつつ、それが積み重なって、やがて二人の間の関係ができあがっていく。ペトラルカ風恋愛詩では、女性がペットとしている犬が、女性と戯れているのを、女性に恋する男性が羨ましがるのは、常套的話題(トポス)である。このトポスでは、男性は女性に向かって、そのペットに対するように自分を扱ってくれと言い寄る。「私が(もだ)えているというのに、あなたは犬を胸で抱きしめ、/膝でくるみ、いやそれどころか嫉妬をものともせず、/息の臭いこの連れ合い[=犬]に甘いキスをさせてやる。」(フィリップ・シドニー『アストロフェルとステラ』55番9-11行)


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
典拠不記載:参照オウィディウス「雌熊が生んだばかりの子は、動物の子ではなく/見るからにひどい生きた肉の塊である。これを母熊がなめて/五体を作り、自分自身と同じような姿にする」(『変身物語』15巻379-381行[➽世番])。なお仔熊はオランダ語で「粗野な熊」(ongelikte beer) といわれていたので、フェーンのここでの文脈に一致する。

〖注解・比較〗
(つや)のない愛:「遊士(みやびを)と 吾は聞けるを ()()貸さず 吾を還せり おその風流士(みやびを)」(万葉集 石川郎女(いしかわいらつめ) 126 )。「風流なお方と私は聞いておりましたのに。[夜、訪ねていった私を]引きとめもしないでお帰しになるとは。のろまな「みやびお」ですね。」(中西進 訳)。大伴田主(おおとものたぬし)(大伴旅人の弟)は洗練された感覚の持ち主として評判が高かった。石川郎女という女性が、田主を深く愛するようになり、ある夜、老婆に身をやつし、鍋の火を借りるという口実で田主の家を訪れる。それとは知らない田主は、家に入れ火を貸してやったが、鍋の件が済むと、それ以上引き留めもせず、郎女をそのまま家から出してしまった。


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