◇愛のエンブレム◇ 61

IVVAT INDVLGERE DOLORI.

En, medicam auersatur opem, en, Podaleiria spernit

Pocula, quae ratio porrigit, aeger amans,

Propert.        Omnes humanos sanat medicina dolores,

Solus Amor morbi non amat artificem. 

アリストテレス   ことを理解し実践する場合には、ともに生活する二人のほうが、
一人よりもずっとよい。

ほらご覧なさい、薬の助けを、愛に病んだ者は拒み、ほら、ポダリーリウス

処方し、理性が勧める盃を受け付けない。

プロペルティウス  薬があれば人間、どんな苦痛も治る。

ただアモルだけが、その病を治す医師を好まない。

愛は助けを拒む

愛は病気で寝込んでいても、医者の業を拒む。

愛は、自分を悲しませる原因が取り除かれるのを悲しむからだ。

愛によって悲しみが起こることを愛は知っているが、

愛することをやめない。 愛の病は理性や薬草でも(いや)されることはない。


❁図絵❁

 天蓋付きベッドにアモルが横たわっている。女性が、薬の入ったコップをアモルに差し出すが、アモルはそれを拒んでいる。女性のコップを持つ右手には馬銜(はみ)(苦しみを抑制するようにという節度の象徴)がかかり、左手には瓶をもっている。瓶はおそらく尿を取るためのもの。当時は尿が病気診断によく用いられた。アモルの額にあるタオルは、病気治療のための道具と考えられる。なおベッドの下にはアモルの持物である弓と矢、そしてその隣には便器がある。

❁参考図❁

ヤン・ステーン (Jan Steen)「恋の病」1660年頃   

病に倒れている女性のために、冬の昼間なのにカーテンを引き部屋を薄暗くしている。その女性の脈を取っているのが医者で、女性の後には心配そうに診察の光景を眺めている侍女がいる。しかし画面左奥の玄関の上には、女性の居場所をちょうどねらって矢を射ようとしているアモルの白い像がある。また玄関の外にはこの女性を訪問しようとしている男性の姿が見える。恋の苦しい病にかかり、同じ男性でも医師ではなく訪問する恋人がこの女性には必要なのだ。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:実際にはウェルギリウス[➽3番]「不健全に取り乱し、悲しみに浸ることは身体によいのでしょうか」(『アエネーイス』2巻776行[➽15番])。英雄アエネーアースは燃えさかり陥落するトローイアの城のなか、家族とともに脱出するが、その途上で妻クレウーサが行方不明になる。そこでアエネーアースは敵に占拠された城内に再び入り妻を探すが、そこで出会ったのは妻の亡霊であり、亡霊が引用のように述べて、アエネーアースの気持ちをなだめる。したがって出典では、嘆き悲しむことは身体に悪いといっている。これに対してフェーンは、恋の病に陥った人からその恋心のもだえを取り除くことは、恋そのものを消去することになるので、むしろもだえたままでいることがよいのだと言い換えている。

プロペルティウス:全4行のうち、この詩人の名前を冠した最後の2行が『エレギーア』(2巻1歌57-58行[➽14番])からの引用。この歌では、プロペルティウスがあえて戦争とその戦功を歌う叙事詩人としての名声を確立することをやめて、「愛のために死ぬことは栄光」と宣言し、恋愛叙情詩人となることの決意が述べられている。そしてこの詩人は、医薬は苦痛を治すが、愛する人間は恋の病から癒されることを望まない、だから苦痛にたえず耐える愛をテーマとして歌うことは、苦痛の克服を目指す戦争のテーマ以上に偉業なのだと主張している。

〖注解・比較〗
ポダリーリウス:医療の神アエスクラピウスの息子といわれる医師。効能のある薬を処方する有能な医師の代名詞。

恋の病:「我こそや 見ぬ人恋ふる 病すれ ()ふ日ならねば ()む薬なし(読人知らず『拾遺集』恋一・665)。「私は逢っていない人を恋する病気をしている。会う日がないのでこの病を治す薬がない」。「逢っていない人」はおそらく人妻で、恋すれば不倫を犯すことになるので、逢えないのだろう。逢えないゆえにますます恋心は募っていく。『源氏物語』(36柏木)において柏木は、叔父である光源氏の正妻・女三宮(おんなさんのみや)に恋をしてしまい、不倫の関係に陥るが、不倫を犯したことへの罪責感もさることながら、女に逢えない苦しさで「薬やご祈祷」によっても効き目がなく死んでしまう。


◇愛のエンブレム◇ 65
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