◇愛のエンブレム◇ 60

CONCRESCIT AMOR MOTV.
Plutarch. Quemadmodùm lac coagulo concrescit: sic
amantes vnum fiunt Amore.
愛は動くことで固まっていく。
プルータルコス 牛乳が固まって凝乳になるように、アモルによって愛する者たちは一つになる。
動くと一つになる
牛乳は長いことかきまわしているうちに、元の性質が消えてしまうようにみえる。
牛乳は、こうして異質なものと一体化する。
ちょうどそのように、恋人が変化を被ることを最初から拒んでいるかぎりは、
二人の恋人たちの心も一つになることはない。
❁図絵❁
一番手前では、アモルが樽のなかの乳を練っている。テーブルでは別なアモルが丸皿に盛りつけをしている。一番後ろでは、乳牛からアモルが乳を搾っている。チーズ造りの場面だとすると、搾った乳に、テーブルの上でスターター(乳の発酵をスタートさせる乳酸菌やカビ)を注ぎ、それを樽に入れてレンネット(乳の凝固をさせるために添加物)とともに攪拌し、凝乳を造っていることになる。背景左に見えるのは、凝乳を重石の下に置いて、チーズとして固めている場面。
❁参考図❁

フロリス・ファン・ダイク (Floris van Dyck)「果物、ナッツ、チーズのある静物」1613年
パンにチーズ、そしてアルコール飲料に小さなナプキンというのは質素な朝食の典型であったが、ここではリンゴ、オレンジ、ブドウなどの果物も付いている。テーブルランナーにのっている食物の量は一人分にしては多いが、食事の場面だとすれば、愛する人もなく一人で食卓についていることがわかる。なおオランダの北西部は牧草地帯になっていて、食肉、チーズの一大生産地であった。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
プルータルコス:『倫理論集』「結婚への指針」142F-143A(ロエブ版2巻325ページ) [➽4番]。愛し合っている夫婦は、親しみあい一つになるべきだと教える。異なった液体を混ぜると性質を変えて一つになるように、夫婦は、身体、財産、友人といったそれまで個別にもっていたものを共有することで、一つになり、一体化こそが本物の夫婦の特徴だと教えている。ミッシェル・フーコーは、この箇所に言及しながら、「全面的な融合―どんなものももはや壊すことができない新しい統一単位の形成を確保する『融合』」と述べている(『性の歴史Ⅲ:自己への配慮』[田村俶訳, 新潮社, 1987年]212ページ)。
〖注解・比較〗
一つになる:「伊勢の海に 釣りする海人の うけなれや 心一つを 定めかねつる」(詠み人知らず『古今和歌集』509)「伊勢の海で釣りをしている漁師の浮子なのであろうか、私は。心一つを定めることができず、ふらふらさせている」(高田祐彦 訳)。恋する私の心は、伊勢の漁師が垂らす釣り糸の浮きと変わらないようです。「あなたに身を任せます」という踏ん切りがつかず、私の心は「波」(人の噂)に左右され、揺れ乱れてばかりいます。フェーンの教示とは異なって、ここでは愛があっても一つになれない苦しみが吐露されている。なお句中の「うけ」は浮きのこと。
