◇愛のエンブレム◇ 84

P. Syr. AMANS, QVOD SVSPICATVR, VIGILANS SOMNIAT.

Ouid.   Ante meos oculos praesto est tua semper imago,

Et videor vultus mente videre tuos. Terent. Hi qui amant, ipsi sibi somnia fingunt.

Terent. Hi qui amant, ipsi sibi somnia fingunt.

プーブリウス・シュルス   愛する者は目を覚ましながら、目が奪われるものの夢を見る。

オウィディウス   僕のすぐ目の前に君の姿がいつもある。

君の表情が心の中で目に見えるようだ。

テレンティウス   ああ、恋をしていると、自分で自分のために夢を見るのだろうか。

夢が喜びを生む

   恋人は昼間に幻想に耽り、夜になると夢を見る。

夢では自分の(ひと)が目の前にいると思い、

自分が心から願っていた幸せに喜ぶ。

でも幸せがこうじてひとたび目が覚めると、その喜ばすものは失われる。


❁図絵❁

 心臓が矢で射られたアモルが、天蓋付きベッドに横たわっている。そこに恋人が半裸の姿で現れ、かけ布団をまくろうとしている。

❁参考図❁

ルーベンス (Rubens)「パウシアスとグリュセラ」1612-15年

パウシアス(4世紀のギリシアの画家)は、花冠作りが得意なグリュセラを深く愛していた。画家は、ないものをあるかのように描き出すのがうまかったので、すでに枯れてなくなってしまったグリュセラの花冠を絵にして再現するのが常であった。画家は恋人の姿も絵にして再現していたに違いない。


〖典拠:銘題・解説詩〗

シュルス:『警句集』A 16[➽31番]。

オウィディウス:[➽世番]『黒海からの手紙』2巻第4書簡 7-8行[➽16番]。ローマから追放の身となった詩人オウィディウスは、ローマ時代に自分の詩を批評してくれた男性の親友アッティクスに宛ててその変わらぬ友情を吐露している。したがってここでの引用のように男性が自分の前にいない女性を思い浮かべているのではなく、離れ離れになった男友達を眼底に再現している。

テレンティウス:[➽21番]実際にはウェルギリウス『牧歌』8歌108行[➽3番]。第8歌は二人の羊飼いの歌合戦の形式になっていて、一方の羊飼いは自分の恋人(女性)が心変わりをしてしまったことを歌い、他方は女が魔術を使い、心変わりし都会に行ってしまった男を取り戻そうとしていることを歌っている。引用は女が魔法の儀式を行っていると、祭壇から突如、煙が上がり、犬が吠えだしたのを見た女が、これは夢か幻かと自問自答する台詞。

〖比較〗

:「夢の中に 逢ひ見むことを頼みつつ 暮せる宵は 寝む方もなし」 (詠み人知らず『古今集』525)。<大意>昼間のうちに、夢の中で自分が恋する貴男(あなた)とお逢いすることを願いつづけています。そして陽が沈み宵になると、私はどちらの方角に枕にして寝ると、お逢いする夢が見られるのか、それが思い当たりません。昼間、起きている時には、自分の心は自然とその男性のことに向かうが、では寝ているときにもその人の姿が夢に浮かび上がってくるかといえば、どうやらそうではない。その理由は、自分の恋心が弱いからではない。枕を置く方角は、それがよければ意中の人の夢を見ることができると信じられていたので、枕の方角が悪いのだと、女性は言い繕う。そしてもう一つの、おそらく本当の理由は、男性がこの女性に想いを寄せてはいないからということになる(75番比較を参照)。意中の人が夢にあらわれるかどうかは、片思いか相思相愛なのかを見極める、一種のリトマス試験紙であった。


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