◇愛のエンブレム◇ 53

Senec.  AMOR FACILIVS EXCLVDITVR, QVAM EXPELLITVR.

Principijs obsta, serò medicina paratur,

Cùm mala per longas inualuêre moras.

Senec.  Quisquis in primo obstitit

Depulitque Amorem, tutus ac victor fuit.

セネカ    愛は追い出すよりも、入れない方が簡単。

始まったら押さえ込め。ぐずぐずしているうちに病気が

ひどくなり、薬を用意しても手遅れになる。

セネカ   アモルが来たところを押さえて、追い出した人は、

アモルへの勝者となり、安全な身であった。

愛への抵抗はあっても最初だけ

 愛を避けて自由に生きたいと思うなら、

なにか賢明な手段をこうじて、愛をドアの外にやっておかなければならない。

ひとたび愛が入ってくるなら、手の打ちようがない。

愛を追い払うのではあまりにも手遅れなのだ。


❁図絵❁

アモルは、愛の炎を象徴する松明と愛の心を起こす弓矢をもっている。このアモルを、家のドアのところで若い男が外に押し出している。男は足で踏ん張り両手でアモルを家の中に入れまいとしている。

❁参考図❁

アールト・ファン・デル・ネール (Aert van der Neer)「手を洗う女性」1675年

重厚さを感じさせる一室で、高価な衣服をまとった女性(一説では高級娼婦)が、召使いの少年が差し出す銀の水差しから流れる水で両手を洗っている。またこの少年のずっと背後には、この一室になんとしても侵入しようとする男がおり、その男を内に入れまいと女中が懸命に抑えている。手を洗う女性は、もはやこの男との関係は終わったと思っているのか、そんな騒ぎには気づいていないかのようだ。


〖典拠:銘題・解説詩〗
セネカ:[➽世番]「無視するよりも未然に防ぐ方が簡単だ」(「自己統制について」『道徳書簡』第116書簡3節[➽5番])。ここでセネカは、友人が死んだ場合に生じる悲しみを例に引きながら、心に湧きあがってくる感情はその当初につみ取ってしまう方がよく、いったん湧きあがり始めるとどんどん膨らんでいき、自己統制がきかなくなると戒めている。またこのすぐ後で、やはり恋愛感情も同じだから、相手への従属を強いる恋愛感情も、その芽が出始めた瞬間に摘んでしまうのがよいと教えている。

典拠不記載:実際には、オウィディウス[➽世番]『恋愛治療』91-92行[➽43番]。オウィディウスは若い男性に向かって、つまらない女性に恋をしている場合に、どのようにそこから抜け出すか、そのための様々なアドバイスのうちの一つとして、恋に取り憑かれても、その初期段階で芽を摘むよう勧めている。

セネカ:『パエドラ』(132-133行) [➽世番]。パエドラ女王は、自分が継子を愛してしまっていることを乳母にそれとなく打ち明ける。それにたいして乳母は、道ならぬ恋に陥ってはならないことを(さと)すが、そのときの乳母の言葉。ずるずると愛に入っていくと、愛の軛からは抜けられなくなると教える。

〖注解・比較〗
追い出す:「いでていなば 誰か別れの かたからむ ありしにまさる 今日(けふ)はかなしも」(伊勢物語 40段)。「[親が女を] 連れて出て行ってしまうのならば、誰だって別れがむつかしいことがあろうか。[私は女と]別れるよりほかはないのだ、今までよりもいっそうあれ[女]がいとしく思われる今日のこの悲しみよ」(石田穣二 訳)。ある若い男が、ある女を愛したが、その親は息子がこの女を愛しては大変と追い出そうとしたが、踏ん切りがつかなかった。ところが息子が女を深く愛するようになったのを見て、「にはかに親、この女を追ひ()つ」、つまり追い出した。その時の男の歌が引用。なお男は悲しみのあまりこのあと死んでしまう。


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