◇愛のエンブレム◇ 34

Ouid     OMNIS AMOR SVRDIS AVRIBVS ESSE SOLET.

Si dominam rumor vel vulgi fabula differt,

Verus amans surdis auribus esse solet.

Omnia dat ventis & nudibus: exsulat omnis

Prorsus ab illius pectore suspicio.

オウィディウス     愛があるなら、聞く耳をもたないのが常だ。

自分の恋する女性が、俗人どもの立てる噂や作り話の的になっても、

 本当に愛しているなら、そんなことには聞く耳をもたないものだ。

なにもかも風や雲に流し、どんな疑いも

自分の胸からするっと出ていく。

愛はしばしば耳が遠くなる

 大切で素敵な恋人について恥となるような

噂が伝わってきても、アモルはじっとこらえて聞かず、

両耳を押さえてつんぼを決めこみ、

悪い話には耳を貸さない態度を示す。


❁図絵❁

 玄関に向かって進むアモルは耳を指で押さえて、耳を聞こえないようにしている。アモルの後ろでは<噂>がラッパを吹き鳴らして飛び、アモルに恋人の悪い噂を吹き込もうとしている。

❁参考図❁

レンブラント (Rembrandt)「ルクレーティアの自殺」1666年

ローマが建国途上にあった時代に、ローマの将軍コルラーティーヌスは、ローマ王の息子タルクイヌスの前で妻ルクレーティアを絶賛する。この貞淑な妻に情欲を抱いたタルクイヌスは、女が自宅に一人でいるところを狙い、来訪し、肉体関係を迫る。ルクレーティアはできるかぎり抵抗するが最終的に陵辱されてしまう。女は、男が去った後、夫に実情を伝えるべく一部始終を手紙にしるし、自殺する。自殺する間際のルクレーティアの姿は、16-17世紀には特に宮廷女性の肖像画として描かれることが多く、不義密通の噂が宮廷ではたえなかったことがうかがえる


〖典拠:銘題・解説詩〗

オウィディウス:[➽世番]実際には、プロペルティウス「醜い愛は、聞こえない耳を決めこむものだ」(『エレギーア』2巻16歌36行[➽14番])。プロペルティウスは、ふんだんに贈り物をする総督に自分の恋人を取られそうになっている。そこでこの詩人は恋人に向かって、総督の愛は偽りの誓いからなるもので、そういう不実の愛は、真実に対して耳を貸そうとしないのだと指摘する。フェーンは、ここでは真実の愛が恋人同士の間にあるなら、悪い噂が聞こえてきてもそれを信じないと、原典の趣向を転倒させている。

典拠不記載:

〖注解・比較〗 
:「嘆きわび 身をば捨つとも 亡き影に 憂き名流さむ ことをこそ思へ」(『源氏物語』51浮舟)。「嘆き嘆いて身を捨てても亡くなった後に嫌な噂を流すのが気にかかる」(渋谷栄一 訳)。薫に(かくま)われた浮舟は、薫の競争相手である匂宮(におうのみや)とも関係を持ってしまう。匂宮を愛することで薫を裏切ることになるばかりか、自分の異母姉妹にあたる匂宮の正妻に不義理を働くことになる。この重圧に耐えきれず、浮舟は自殺を決意するが、死後にこうした裏切りや不義理が露見すれば、自分はどれほど軽薄な女と噂されるかと気に病む、その心情を詠っている。


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