◆二元対立の英語感覚◆《旧情報⇒新情報》 There is 構文はなぜあるのか
英語を最初に習ったときに強烈な印象だったのは、きょうだいを述べるのに兄、妹という区別をしないということでした。男きょうだいならmy brother、女きょうだいならmy sisterといい、男女の区別はつけても、それ以上に年齢の区別をしないということでした。大学に入り立ての頃、アメリカ人の学生から、”I know a girl whose last name is Suzuki. Do you have any sisters?”と聞かれて、つい “Yes, I have a younger sister”と答えてしまい、自分には妹しかいないのでついつい “younger”を “sister”の前につける癖がついているのを意識化しているのに気づきました。
もう一つ驚いたのは、「ラジカセが机の上にある」といおうとすると、There is という「構文」をつかわなくてはいけないということでした。
△ (1) A radio-cassette player is on the desk.
○ (2) There is a radio-cassette player on the desk.
なぜこのようなことになるのでしょうか。そういう構文があって、それに従っていう規則があるのだといってしまえばそれまでなのですが、ここには英語の大事な癖が潜んでいるような気がしてなりません。その癖とは文の発話者ではなく聞き手、文の書き手ではなく読み手にとっての新情報は文頭にはこないという原則があるということです。
旧情報→新情報
旧とは、今から話そうとすることを聞いてくれる相手、今から自分が述べようとすることを読んでくれる相手にとって、すでに知っているということです。
“there is” が文頭にくるのは、これが相手にとっての旧情報となりうるからです。新情報はもちろん “there is”の直後にくるものです。上の例でいえば、a radio-cassette playerが新情報になります。
では a radio-cassette playerに続く、on the deskは新情報なのでしょうか。the desk とtheが付いていることからもわかるように、相手にとってははっきりとわかることです。この情報はあってもなくともよいのです。つまり新情報におまけにように付け足したもので、補足情報といえます。 文の流れとしては、
旧情報→新情報↘
補足情報
この流れが、英文の基本形なのです。
この基本形がわかってくると、次の文はどう訳してたらよいでしょうか。
(3) 私の家族はずっとペットを飼ってきた。
英語の基本形を無視すれば、
(4) My family has always kept pets.
しかし今相手と話しているのは私ですから、私ではなくいきなり私の家族が出てくるのは相手にとっては新情報になってしまいます。やはりここは私という旧情報から始めてペットという新情報を次に述べ、補足として家族を入れるほうが、英文の基本形にそった形になります。
(5) There are always some pets in my family.
では (6) キッチンでお湯が沸いている。
これはどうなるのでしょうか。日本語にひかれて
(7) Water is boiling in the kitchen.
ここでは相手にとって「水」は新情報ですから、やはり頭に There is を付けて
(8) There’s water boiling in the kitchen.
「旧→新」という流れに日本語はなっていないために、こんな英文を実際に書いた女性がいました。
△(9) I like Marilyn Monroe, but my breasts are small unlike her.
私はマリリン・モンローが好きですが、あの人とは違って、胸が小さいのです。
I like Marilyn Monroeの部分は、旧から新へという情報の流れになっています。ところが but以下では、やはりこの旧→新の流れでなくてはならないのに、突然 my breasts という新情報が出てきています。やはりここは私という旧情報を頭において、breastsは新情報として提示する必要があります。
(10) I like Marilyn Monroe, but unlike her I have small breasts.