◆二元対立の英語感覚◆《切断⇔影響》 「~したのは君?」は、なぜ現在形ではなく過去形を使うのか


過去形⇒相手に確かめるときに使う

「最後にあの人にメールしたのは君じゃないかい」というときに、どちらの英語が正しいでしょうか。

(1) Weren’t you the last one to call him?
(2) Aren’t you the last one calling him?

「君じゃないかい」というので、私たちは Aren’t you と現在形で尋ねてしまいます。しかしそれではとても断定的に相手に聞こえます。なぜなら別項で説明したように、現在形というのはちょっとやそっとでは動かない事実、確定事実に対して使う形だからです。
 「君ではないかい」と尋ねているのですから、これはちょっとやそっとでは動かない確定事実ではありません。別の言い方が必要になるわけです。そこで使われるのが過去形です。
 なぜ過去形なのでしょうか。 過去形の意味は現在からの切断でした。過去形を使うことによって、述べていることは現在から切り離されます。そのために過去形を使った文では、場合によっては相手にとって夢想として聞こえてきたり、ある場合によっては丁寧に響くことになります。
 ここでは話し手が相手に向かって「電話をした」のは君じゃないのかと尋ねているわけですから、「君が電話をした」という断定ではありません。「君が電話をした」という私の推測は、もしかしたら間違っているかもしれません。そこで Aren’t you ではなく、Weren’t youとなります。Aren’tを使ってはまるで尋問のような響きを持ってしまいます。

 次にto call himの箇所です。 to不定詞と動詞ingとの違いは、別項で説明したように、to不定詞は原則として、まだやっていないこと、他方、動詞ingすでに行ったこと言い表すために使われます。とするならば、ここでは電話をしたというすでに行ったことを言い表しているわけですから, calling him にすべきだと思うかもしれません。しかしこれもまた先ほどの、ちょっとやそっとでは動かない事実かどうかということとかかわってきます。話し手は相手に向かって相手が電話をしたかどうかという事実を確認しているわけで、実際に電話をしたかどうかは話し手にはわかっていないわけです。
 ですからもしもここで動詞ingの形calling him を使ってしまうと、話し手は相手が既に電話をしたという事実を知っていることになってしまいます。知らないはずのことを知っている形で聞くというのは嫌味以外のなにものでもありません。ですのでここではまだ行っていない形、不定詞で相手に向かって尋ねることになります。

 ただしこのメールの例のように、現在の時点で過去の事実が生きている場合になんでも過去形を使えばよいというのではありません。たとえば「あの人とどこで知り合ったの?」は、「知っている」ではなく「知り合った」という連想から過去形で、

(3) Where did you know him from?

といってしまいます。しかしこのようにたずねると、過去形は現在からの切断ですから、今はその人と相手はさほど親しくもないし、尋ねている私もどうやって知り合ったのか、さほど興味がないような印象を与えます。
 ですからともかく会いたい場合には、
(4) Where do you know him from?

とたずねる必要があります。


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