spirit と soul <2> キリスト教とギリシア
Spirit: 人間だけが持っているもの
Soul:個々人がもっている独特のもの
spirit と soulはその語源が違い、そのためにどのようにニュアンスが異なっているか、すでに説明した(spirit と soul その違いはどこにある)。しかし語源だけがこの二つの単語を区別する指標となるのではなく、キリスト教の考え方がこれらの単語に異なった意味を与えている。聖書の冒頭は天地の創造がどのように行われたかが書かれているが、まず次のような状態であったという。
初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。(新共同訳『聖書』「創世記」1:1)
ここでいう霊はspiritとなっている。アルコール度の高い酒をspiritsというが、神が今この場にいることは、強い酒を飲んで圧倒されるような感覚、エネルギーの高いボルテージにしびれるような感覚で考えられている。そしてさらに聖書では、人間にのみ、霊があると教えている。
主なる神は、土(アダマ) の塵で人(アダム) を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。(新共同訳『聖書』「創世記」2:7)
土の塵を材料にして人型を作り、その鼻に神が「命の息」spiritを吹き入れた。この「息」は人間にだけ特権的に与えられたもので、動物や植物などには与えられていない。
人間は他の被造物とは異なった特別な地位にあるわけだが、個々人は同じ人間であってもそれぞれ個性を持っている。具体個別の一人ひとりの人間は、人間であるからには霊魂spiritをもっているが、個々人として際立たせそれぞれが所有しているのが「たましい」soul である。
個々人はそれぞれ独特の「たましい」をもっている。この考え方はキリスト教からではなく、初期キリスト教が深く影響を受けているギリシア思想に負っている。
<参考文献>
Barfield, Owen,. 英語のなかの歴史. 訳 渡部昇一, 土家典生. 中央公論社, 1978.
出隆. ギリシャ人の霊魂観と人間学. 出隆著作集. Vol. 別巻1: 勁草書房, 1967.
松浪信三郎. 死の思索. 岩波新書. 岩波書店, 1983.
渡部昇一. 日本語のこころ. 講談社現代新書. Vol. 372: 講談社, 1974.
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