◇愛のエンブレム◇ 3
Virg. Crescent illæ, crescetis amores.
Felix insitio, qua ramum ramus adoptat,
Arbore de duplici fiat ut una, facit:
Atque Amor é geminis concinnat amantibus unum:
Velle duobus idem; nolle duobus idem.
ウェルギリウス✒ 彼女らは成長するだろうし、恋人たちよ、おまえたちも成長するであろう。
枝が枝を受け入れて二つの木から一本の木となるように
幸福なつながりは有益だ。
そして<愛>も、二人の愛する者たちをひとつにつなぎ合わせる。
同一事を二人は望み、同一事を二人は望まない。
二つでひとつ
技によって木にしっかりとついた添え木は
やさしい自然が二つをひとつに結び、育ててくれる。
そのように、二人の恋人はひとつに結ばれ、ひとつの根が二人を育む。
心と望みがひとつになって、二人はそのまま生きる。
❁図絵❁
多くの樹木が並ぶ中、その一本の樹のかたわらに立つアモルが、その太い枝に細い枝をあてて接ぎ木しようとしている。
〖典拠:銘題・解説詩〗
ウェルギリウス:『牧歌』✒10歌54行。この箇所では、詩の語り手の友人が、恋人に見捨てられてしまい、友人がその失恋の嘆きを述べている。なおこの友人は自分の愛を若木に刻みこみ、その「木々が成長するだろうし」、またアルカディアの愛する者たちも、「成長するだろう」といっている。接ぎ木の技法についてはウェルギリウスの時代にすでに確立していたが、『牧歌』では接ぎ木への言及ではなく、たんに育つこと、そして失恋による衰弱がさらにひどく大きくなっていくことについての言及。それをフィーンは、恋が実って二人が一人になることへと変奏している。 典拠不記載:
❁参考図❁
サロモン・デ・ブライ (Salomon de Bray)「ハーレム出版者アブラハム・カステレインとその妻」1663年
オランダで新聞を創始したカステェインCasteleynが、庭のテラスで妻とくつろいでいる。老年にさしかかる二人がひとつであることは、その握った手が暗示している。また庭にうっそうと茂る樹木のうち、妻のすぐ横に見えるのはブドウの樹で、妻が夫に支えられていることをあらわしている [➽123番]。
〖注解・比較〗
ウェルギリウス:〔前70年-前19年〕ローマ文学の筆頭にあげられる詩人。牧畜やミツバチ飼育など農耕の技法を教訓を交えて歌った『農耕詩』、農夫や牧夫が恋愛などのテーマで歌合戦をする『牧歌』、英雄アエネーアースが落城するトローイアを出てローマを建国する軌跡を歌った叙事詩『アエネーイス』[➽15番]など、これらはいずれもルネッサンス期にはよく読まれ、知的サークに与えた影響は計り知れない。
『牧歌』:10篇の短い歌からなり、田園に住む農夫や羊飼いが、家畜、恋人、友人のことを歌う。ただし、都市に住む貴族や歌人が登場人物となり、農民の仮面をかぶり歌うという技巧の上に成り立っているので、詩の真意は二重三重に包み隠されることになる。ルネッサンス期には「牧歌文学」というジャンルが、悲劇や喜劇と並んで大きな割合を占めていた。
一本の木:「あきになる 言の葉だにも 変はらずは 我も交はせる 枝となりなむ」(『大鏡』)。秋になると木の葉の色でさえも変わってしまいますから、帝[村上天皇]が私に飽きることなく、今のお言葉だけでもお変わりなさらないなら、私[宣耀殿の女御・藤原芳子]も帝につながる連理の枝のようになりたいと思います。連理の枝は、根元が別々である二本の木が、途中、枝や幹がからまりあって、一本の木のように連なったもの。典拠は、「天ニ在リテハ願クハ比翼ノ鳥ト作リ/地ニ在リテハ願ハクハ連理ノ枝ト為ラン」(白居易『長恨歌』)。