◇愛のエンブレム◇ 63

EST MISER OMNIS AMANS.

Tibull. Acer Amor[,] fractas vtinam tua tela sagittas,

Scilicet exstinctas aspiciamque faces.

Tu miserum torques; tu me mihi dira precari

Cogis, & infanda mente nefanda loqui.

愛する者はだれでもみじめ。

ティブッルス     心焦がすアモルよ、お前の武器の矢が折られ、

 そしてもちろん松明が消えるのも、見られますように。

お前は私を拷問にかけてみじめにし、自分自身を呪うようにしむけ、

言いあらわしがたい狂気に陥れ、口に出すのもはばかれることを言わせる。

愛のみじめさ

 愛する男はみじめに生き、熱害、冷害を

しばしば受ける。だからアモルの矢が

折られて、アモルの火が消えたらと望むのだ。

恋をすると、皆、あるいは大半の男が、そのみじめさに不平をもらすのだ。


❁図絵❁

 男が川辺で肘をついて倒れている。男の心臓にはアモルの矢が刺さり、男には北風が吹きつけ、雨が降りそそいでいる。男は、右手を差し出し、空に舞うアモルを見つめていて、まるで何かを言っているかのようである。一方、陽光を受けるアモルは、左手で松明を空高く掲げ、右手は矢筒に納められた矢に手をかけている。

❁参考図❁

ハブリエル・メツー (Gabriel Metsu)「病んだ女」1658-59年

女性が大きな腰かけにぐったりと身をもたれている。女性の青白い肌の色から萎黄(いおう)病(green sicknessあるいはchlorosis)だと、当時の人には理解できた。萎黄病の病因は月経抑圧あるいは恋愛だと当時は考えられていた。この女性の場合、女性自身の恋心が煩悶で燃え尽きてしまい、アモルに不平をいう気力すら失われている。


〖典拠:銘題・解説詩〗

典拠不記載:

ティブッルス:『エレギーア』2巻6歌18行[➽12番]。恋人を捨てて戦陣に赴く男性に対して、アモルは愛への反逆者という烙印を押すようにと、詩人はまず述べる。次に、軍務をやむえないことと、もしアモルが認めてくれるなら、詩人自身も恋を捨てて戦陣に赴くという。ところが実際に戦争に参加してみると、怖じ気づき、またしても愛に心がひかれてしまう。そこで、詩人は引用にあるように、人間を恋に陥れるアモルの力をあえて呪う。

〖注解・比較〗
松明:「ティブッルスよ、ご覧なさい、ウェヌスの子の矢筒が逆さになり/矢が折られ、松明が消えているのを」(オウィディウス[➽世番]『恋の歌』「ティブッルスの死に寄せて」3巻9歌7-8行)。ここではアモルがティブッルスの死に落胆して、アモルの持物がその常態から転倒していることが示される。なお消えた松明は、古代ローマ彫刻では死の象徴として用いられた。

狂気:「いと似げなきことなりけり。あな、もの狂ほし」(『源氏物語』28 野分(のわき))。「全くそれは自分には不相応な、とんでもないことなのに、ああ、今更こんな迷いを抱くとは、なんという狂気の沙汰か」(瀬戸内寂聴 訳)。光源氏の息子・夕霧は、台風に襲われた六条院(源氏とその妻たちが住む御殿)に見舞いに行ったとき、源氏の正妻・紫の上を偶然、見てしまい、たちまち恋に取り憑かれる。その心を奪われた狂気の状態を夕霧自らが自分に言い聞かせ、そこから抜け出そうと、もがいている。


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