◇愛のエンブレム◇ 80

SINE FOMITE FRVSTRA.

Qui cupiens lentae nimium tepidaeque puellae est,

 Frustra est, ac nugas, illius instar, agit,

Qui silice abstrusum sine fomite quaeritat ignem.

 Mutuus est verè fomes Amoris Amor.

(ほくち)がなければ無駄。

ぐずぐずと煮え切らない恋人を求めているなら、

 無駄で、それは徒労も同然。

火口がないのに、火打ち石を使って隠れている火を出そうとする人のようだ。

 愛の火口があるのは、お互いに愛があってこそだ。

恋の骨折りが虚しく費やされる

    火口がないのに火打石を打っても無駄というもの。

同じく愛も、愛が燃え上がらないところでは消えてしまうだけ。

愛は愛を育んでこそ、愛本来の熱が保たれるはずなのだ。

たったひとりのままでいるというなら、愛は決して生きることはできない。


❁図絵❁

 左側のアモルが、右手で握り手つきの鉄を振り上げ、左手にもった火打ち石にぶつけ火花を散らそうとしている。右側のアモルは、火口箱をもって、その火花を受け止め、火を起こそうとしている。

❁参考図❁

ロヒール・ファン・デル・ウェイデン (Rogier van der Weyden)「善良公フィリップ3世」1450年頃

第三代ブルゴニュー公(フランス中東部)芸術を積極的に保護し、<黄金羊毛の騎士団>を自ら結成し、騎士道を興隆させた。そのネックレスの意匠は、火打ち鉄、火打ち石、火花からなっている。


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:

典拠不記載:

〖注解〗

火口:「アカーテス[アエネーアースの部下]は、火打ち石を打って火花を出し、/葉っぱに火を起こし、その周りに乾いた燃え代を撒いて、こうして火口に火を出した」(ウェルギリウス[➽3番]『アエネーイス』1巻174-176行[➽15番])。この後、勇士アエネーアースはカルターゴーの女王ディードーに会い、女王は勇士への「盲目の炎」(1巻2行)で心を焦がされる。

▶比較◀

:「(かがり)()に たちそふ恋の煙こそ 世には絶えせぬ 炎なりけれ」(『源氏物語』27 篝火)。「あの篝火の炎につれて 立ち上る恋の煙こそ この世にいつまでも 燃えつきることのない わたしの恋の熱い炎なのです」(瀬戸内寂聴 訳)。秋の夕暮れに、光源氏(36歳)は琴を枕にして、養女である(たま)(かずら)とともに横になっている。源氏は、庭でたかれている篝火にかけて歌ったもの。火の煙とともに立ち上る、貴女への恋の煙こそ、いつまでもけっして消えない私の炎からでているのですと告白する。そもそも光源氏は、玉鬘を引き取ることで、彼女に寄り集まる男性たちの様子を見て楽しもうと考えた。しかし、このように自身も玉鬘に惹かれていき、関係を持ちそうになる。これに対して玉鬘は、周囲の人から怪しがられるので、そのような炎を消してほしいと、返歌をする。


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