◇愛のエンブレム◇ 113
FIT AMOR VIOLENTIOR A VI.
En, frustra fortuna facem remoratur Amoris,
Nam ferus est, alis fallit & ille moras;
Atque retenti instar violentiùs æstuat amnis.
Sic fit & à remoris plùs furiosus amans.
アモルは力を使ってさらに荒々しくなる。
ご覧なさい、<運の女神>がアモルの松明を押しとどめているが、それは無駄。
アモルは、荒々しくもがき、羽を使ってその圧力を和らげている。
せき止められた河よりもさらに激しく暴れる。
恋にも邪魔が入れば、さらに恋心はいっそう強くなる。
力によっていっそう荒々しくなる
川の流れを堰きとめようとするものがあると、
川はあふれる前でも、がなりたてて荒れ出す。
恋する者は、<運の女神>か何かの事情から、思い通り進まなくなると、
その恋心は反発し、力づくで愛を勝ちとろうとする。
❁図絵❁
アモルが握っている燃える松明を、<運の女神>が左手で押さえつけ、アモルがこれ以上動かせないようにしている。アモルは羽をばたつかせて、力づくで松明を動かそうとしている。アモルの足下には小川が流れ、小さなダムで部分的に堰きとめられている。なお<運の女神>が右手に握っている櫂、頭につけている船の帆、風になびく髪の毛は、いずれも運の移ろいやすさや気まぐれを象徴している。
❁参考図❁
レンブラント (Rembrandt)「ダナエー」1636-47年
アルゴス王は王女ダナエーを青銅の塔の中に閉じ込めて、王女の求婚者たちを退けた。しかし王女に恋したユッピテル大神は、妻ユーノー女神の目を盗んで、黄金の雨に変身して塔の窓から侵入し、王女の膝に流れ入り、交わった。ここではユッピテルが光として天蓋つき寝台の中に闖入する瞬間が描かれている。その光を受けて黄金色に輝くアモルの姿がベットの枕上に見える。アモルは、手錠をかけられていて、身動きが自由にならないことにいらだった顔つきをしている。幽閉という障害を設けることで、ユッピテルの恋心はさらに募ったに違いない。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:
典拠不記載:
〖注解・比較〗
もがく:「あしひきの 山下水の 木隠れて たぎつ心を せきぞかねつる」(古今和歌集 491)。山から流れ出したばかりの水が、こんもり茂った木に覆われながら激しく流れるように、私の恋心は逆巻いていて、堰き止めることができない。