◇愛のエンブレム◇ 14

PEDETENTIM

Propert. Ac veluti primò taurus detrectat aratra,

Pòst venit assueto mollis ad arua iugo:

Sic primo iuuenes trepidant in amore feroces,

Pòst domiti, mites æqua & iniqua ferunt.

ゆっくりと

プロペルティウス    ちょうど牡牛が最初は犁(すき)を嫌がるが、

  あとから軛(くびき)に慣れてきて、おとなしく畑に向かうように、

若者も最初は愛にかられて激しい気持ちにやきもきするが、

  あとから愛に飼い慣らされ、穏やかに公正と不正に耐える。

少しずつ

 雄牛は、最初のうちは軛を担うことに我慢しようとしない。

だが訓練すれば、そのうち軛に慣れてしまう。

それと同じように、愛に誘われても愛そうとしない者も、

愛の痛みを担うことにやがては満足するはずなのだ。


❁図絵❁

 アモルが牛に軛を付けようとしている。軛には犂が紐でつながっている。

❁参考図❁

ピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel)「イーカルス墜落と風景」(全体, 部分)1555年頃

 父親の制作した翼を身に付けたイーカルスは、飛ぶことによって閉じこめられていた迷宮から脱出する。しかし途中で高く飛びすぎ、翼と身体を接着していた蜜鑞が溶けて、翼が身体からとれる。そのまま彼は、墜落し、海にはまり溺死する。この絵では帆船の後尾にイーカルスの脚が見える。そういう事件は農夫の目には入らず、そのまま牛に(くわ)を曳かせて畑を整える。牛もおとなしく従って、急勾配のこの農地で重労働を行っている。


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参照キケロー[➽5番]「ためらいながら、ゆっくりと」(timide …… et pedetemptim)(『プーブリウス・クイーンクティウス書簡』16節)。

プロペルティウス:『エレギーア』2巻3歌48-51行。なお引用の最後(51行目)は、異本では「次に飼い慣らされ、はげしい気持ちの後には公正と不正に耐える」(dehinc domiti post haec aequa et iniqua ferunt)となっている。

〖注解・比較〗
プロペルティウス:〔前50年頃-前15年頃〕帝政初期ローマの文学黄金時代を代表する詩人のひとり。伝記などが伝わっておらず出自・経歴は不明。作品としては『エレギーア』のみで、中世には忘れ去られたが、ルネッサンス期に写本が発見され、ルネッサンス恋愛詩人たちからは範例と仰がれる。
『エレギーア』:美しい浮気な恋人キンティアへの激しい熱情との関係から生じる感情の起伏や愛憎の交錯、社会的人間関係の変化、そして女の美しさとその魅力を歌い上げ、愛こそ人生そのものというメッセージを発する。「愛は平和の神、僕たちは恋をして平和を崇めるのだ」(3巻5歌1行)は有名。詩集では神話の出来事が愛の関係からすべて読み解かれている。フェーンは本書で、古典作品を愛という視点から趣向を変えて読もうとしているから、プロペルティウスからおおいに学んだといえる。

愛に飼い慣らされる「君もさは あはれを交はせ 人知れず わが身にしむる 秋の夕風」(源氏物語  19 薄雲)「秋の夕が好きとおっしゃるなら わたしの恋をあわれと思ってほしい 人知れず思いこがれ 秋の夕風の切なく 身にしむ淋しいこのわたしを」(瀬戸内寂聴訳)。光源氏が自分の従妹である斎宮女御(さいぐうのにょうご)秋好(あきこのむ)中宮)に、その恋心を託して贈った歌。女御は何のことだがわからないという顔をして、返歌をせず、奥に入っていこうとする。すると源氏は分別ある女性はそのようなことはしないといって、立ち上がり、その場を去る。源氏の座っていた場所に残る香が女御の鼻につくと、「嫌だー」(うとまし)と感じる。女御はこの後も源氏の恋には応えなかった。素敵な男性であっても、女性は必ずしも「愛に飼い慣らされる」ことはない。


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