◇愛のエンブレム◇ 16

RES IMMODERATA CVPIDO EST.

        Calcat Amor pede mensuram, atque domantia frena, hunc

Nulla lupata modus, lex, retinacla mouent

Propert.  Errat, qui finem vesani quærit Amoris.

Verus Amor nullum nouit habere modum.

アモルは(はか)りしれないもの。

アモルは計量器とと()める手綱を足蹴にする。どんな馬銜(はみ)

尺度、規則、綱によってもこの子を抑え静めることはできない。

プロペルティウス 正気を欠いたアモルに限度を求める者は、間違っている。

  アモルが本物なら、適当に済ませることはしないのだ。

愛は量れない。

 (はかり)と綱とはアモルがきっぱり拒むもの。
愛は量りしれず、(ひも)などでは測りきれないのだ。
手綱を使って愛を抑えようとしても、それは徒労に終わる。
ものごとの調和はアモルの力によってのみ保たれる。


❁図絵❁

 アモルが、馬銜がからんだ計量器(いずれも節制の象徴)を踏みつけて、空に向かって飛び立とうとしている。アモルは、手で握る弓と矢を誇示しているが、それは愛が節制を越えていることを示している。

❁参考図❁

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)「ワインを飲む女性と男性」1658年 「女性と二人の男性」(部分)1661-62年

 この男性は女が欲しくて、真昼から女性にワインを飲ませて酔わせようとしている。画面左の開いた窓ガラスに描かれているのは、節制の女性像。なおこの箇所は、後代の画家によって塗りつぶされていたが、20世紀なって修復された。フェルメールの別な絵には節制の姿がもっとはっきりと描かれている(「女性と二人の男性」)。節制が左手に持っているのは手綱と馬勒(ばろく)。馬は欲望・愛欲の象徴とされていたので、手綱と馬勒を使ってそれを抑え、理性に従って振る舞うように節制は教えている。


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:実際にはオウィディウス[➽世番]『黒海からの手紙』4巻第15書簡31行。黒海に追放されたオウィディウスが、有力政治家ポンペーイウスに、ローマに自分が戻れるよう働きかけをこれまで何度も依頼したが、願いがかなわないために、再度の依頼をあえて自分がやってしまう「望み」について言及している。当然のことながら、そういう文脈でのアモルとは、追放解除の依頼という望みのことであって、男女の愛とは無関係。なお、「愛・望み」が「量り知れない」ことは、古典の決まり文句であった(参照アープレーイウス『プラトンと彼の教義について』(2巻21節)、ウェルギリウス[➽3番]『アエネーイス』6巻823行[➽15番])。

プロペルティウス:『エレギーア』2巻15歌29-30行[➽14番]。夜中に眠気を殺してベッドの上で愛し合う男女の姿についての言及。フェーンは、この奔放な内容を、計量器、手綱、馬銜といった節制の象徴をからめ合わせることで、愛はどのような束縛をも跳ね返すという点にあくまでも焦点をあわせ、性的放縦の容認というプロペルティウスの原文が本来もっているニュアンスを背後に押しやっている。

〖注解・比較〗
『黒海からの手紙』:詩人オウィディウスは、ローマ初代皇帝アウグストゥスの命令で、ローマから黒海の町(現在のルーマニアのコンスタンツァ)へ追放された。その経験が、黒海からローマの友人に宛てるという体裁で書かれた書簡体詩で綴られている。暗くて寒い生活苦だけでなく、文化から縁のない僻地での精神的苦悩が切々と訴えられ、一刻も早くのローマ帰還という願いが何度も歌われる。
アープレーイウス:〔125年頃-?〕ローマ世界で活躍した哲学者・修辞家。アルジェリアで生まれ、カルターゴー、アテネで教育を受け、ローマ、小アジア、アフリカ各地を歴訪し、哲学を講じた。ルネッサンスでは、なかでもラテン語伝奇小説『黄金のロバ』[➽112番]が圧倒的な人気を誇り、その文体は模倣され、その諧謔的な精神は文学や政治の場において称賛踏襲された。

量りしれない:「千尋とも いかでか知らむ 定めなく 満ち干る潮の のどけからぬに」(源氏物語 9 葵)。「千尋も深い愛情を誓われてもがどうして分りましょう 満ちたり干いたり定めない潮のようなあなたですもの」(渋谷栄一 訳)。祭りの日に、源氏がまだ幼い若紫の姫君の髪をほめ、その成長していく様を見守ると歌を詠んだところ、それに対する若紫の返歌。若紫は、源氏の自分に対する愛がはかりしれないものだといわれても、その愛は潮のように満ち引きがあるのではありませんかと、はかりしれなさに疑問を投げかけ、源氏の心をくすぐっている。


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