◇愛のエンブレム◇ 58

AMOR ADDIT INERTIBVS ALAS.

Nemo adeò est stupidæ, natura, mentis asellus,

Cui cor & ingenium haud indere possit Amor.

Pegaseas pecori Arcadico ille accomodat alas:

Mopsum habetem in blandum format & arte procum.

アモルは愚図に翼を授ける。

その人の本性がロバであっても、その心や気質を

アモルがなびかせられないような大馬鹿はいない。

アモルはペガススの翼をアルカディア産の家畜に付けている。

その技によってモプススに翼を添えて、魅惑的な恋人に変えようとしている。

愛は本性を変える

 ロバほど馬鹿なものもいないが、アモルには力があって、愛によって

ロバの感覚を研ぎすまし、ロバの愚かな心を直してやる。

ロバののろまは速くなる。アモルは、しばしば性質を変えてやり、

多くの才能を授ける。けれど、甘さと酢っぱさをまぜこぜにして。


❁図絵❁

アモルが、ロバの背中に翼を付けようとするが、ロバの方はそんなことには頓着する様子はない。しかしそれでもアモルは、ロバに翼を付け、ロバをペガススに変身させようとしている。

❁参考図❁

ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)「真珠のイアリングをつけた女」1665年頃

輝く大きなイアリングを付け、しかもトルコ風の目立つターバンを巻いた女性が、その大きな目でこちらを見つめている。モデルは、当時著名になりつつあった画家フェルメールの家に、住み込み女中として田舎からやって来た女性だといわれている。高価な真珠に、異国趣味の頭飾りは、その出生を忘れさせ、魅惑的な女性にしている。


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:参考 ウォルカーヌス神の子が、英雄ヘルクレースに追われたときの有様は、「<恐怖>は脚に翼を与えた」(ウェルギリウス[➽3番]『アエネーイス』8巻224行[➽15番])とある。

典拠不記載:

〖注解・比較〗
ロバ:「愛は駿馬に踊りを教える」(フランスの格言)。牡馬は五月になってさかりがつくと、雌馬の気を引こうと跳んだりはねたりすることをこの格言はさしている。愛にかられると本人が思ってもみなかった 能力・性質が出ることをいう。

ペガスス:➽15番

家畜:ここでは図絵にあるようにロバのこと。アルカディアは古代ギリシアの理想的な田園(実際には荒れ地であった)。ここでの牧歌的生活は、ヨーロッパ文学を通じて、宮廷や都会生活との対比において、人間のもっとも平穏な生き方として憧れの的であった。アルカディアはまた、ロバの産地としても知られており、アルカディア産ロバというと、朴訥で愚鈍な人という意味をもっていた。

モプスス:ウェルギリウスの『牧歌』(5歌[➽3番])に登場する若い詩人で、パンフルート(牧笛)の名手。ただしここでは田舎者の意味になっている。

魅惑的な恋人:「心ことにうち化粧じたまへる御ありさま、今見たてまつる女房などは、まして見るかひありと思ひきこゆらむかし」(『源氏物語』34若紫上)。「格別入念にお化粧なさったお姿を、今改めて拝見するこちらの女房たちなどは、そのお美しさに御奉公のし甲斐があると、どんなに感激したことでしょう」(瀬戸内寂聴 訳)。光源氏がまだ幼い女三宮(おんなさんのみや)のもとに通ったとき、ただでさえハンサムな源氏が「格別入念にお化粧」をしたので、ますますその輝きを増したということ。化粧、衣装、身なりといった「(アルス)」は、その下地がよければさらにその人を魅力的なものにし、愛を成功に導く。ただし三宮の女房の一人は、この度を越した輝きに一抹の不吉を感じてしまう。


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