◇愛のエンブレム◇ 46

AMOR ODIT INERTES.
Aspice, ab irato testudo fugatur Amore;
Cunctanti nimiùm quæ pede reptat humi.
Impiger est Amor, & res non in crastina differt.
Nempe in Amore nocet sæpiùs alta mora.
Plaut. Tardo amante nihil est iniquius.
愛は怠け者を憎む。
ご覧なさい、怒っているアモルにカメが追いはらわれている。
カメがあまりにもゆっくりした足取りで地面をはっているからだ。
アモルはぐずぐずしないし、ものごとを明日まで延ばさない。
ひどく遅れることは、愛には確実に害になるからだ。
プラウトゥス 愚図な男は、何をされてもしかたがない。
のろまな恋人はうまくいかない
カメは怠惰をあらわす。アモルは怠惰を嫌うので、
鞭でカメから怠惰をたたき出す。
油断なく進むことをアモルは強く期待しているのだ。
愛しているなら、愛が遅れることは嫌にちがいない。
❁図絵❁
道をはっているカメを、アモルが弓を使ってたたこうとしている。たたいて脅し、カメを少しでも速く歩ませようとしている。
❁参考図❁

メルキオール・ドンデクーテル (Melchior d’Hondecoeter)「庭にいる鳥とスパニエル犬」1660-95年頃
前景左に亀がいる。亀は、闘鶏、鶴、ひよこを連れた雌鳥、スパニエル犬、鳩、ヒクイドリ、クジャク、フラミンゴとともに描かれている。静物画と同様にこれらの動物たちは何らかの象徴であるかもしれない。亀は少なくとも日常的に意識される動物であったことがわかる。
〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:実際にはオウィディウス[➽世番]『恋愛術』2巻229行[➽2番]。女が命じることは、万難を排してすぐさまその通り実行するようにと、勧められている。
典拠不記載: プラウトゥス:[➽26番]『カルターゴーの子』✒3幕1場[504行]の改変。ある青年が、売春宿の奴隷娘に恋してしまう。そこで娘を何とかして手に入れようと、売春宿の主から奴隷娘をもらい受ける計略を、青年は自分の召使いである奴隷と共に立てる。引用は、その計略がうまくいったかどうかの知らせを青年が待っているときに、青年自身が述べた言葉。「愚図な友人ほどいらいらさせるものはない。やることは何であっても急ぎである、恋する男にとっては、特別にな」。
〖注解・比較〗
『カルターゴーの子』:アゴラストクレスは、幼くして誘拐されたカルターゴーの子。今では成長し富豪の後継ぎになっている。この青年は売春斡旋宿で働かされている奴隷娘に恋をする。しかしこの娘も、青年と同様にカルターゴーから誘拐されて当地にいる羽目になっていた。それだけではなく、実は青年の従妹にあたる女性であった。それとは知らない青年は、自分の召使いとともに一計を案じて宿主から奴隷をもらい受けようとする。しかし最終的には娘の父が現れ、青年の親戚だと判明する。
遅れる:「春日山 山高からし 石の上の 菅の根見むに 月待ちがたし」(万葉集 1372)。「春日山は山が高いのであろう。岩の上に生えている菅を見るために月の出を待っているけれども、なかなか遅くて待ちきれないことである」(佐佐木信綱 訳)。恋人に会って寝(根との掛詞)ようと思い、チャンスをうかがっているが、親たちの目などがあって恋人に近づけない。月が昇る夜になるのは、遅くて遅くて、もう待ちきれなくなっている。なお、日本では、中国の四神の影響から、亀は霊獣であって、のろまという意味あいは万葉から新古今にかけてはみあたらない。