◇愛のエンブレム◇ 51

Senec. AMOR TIMERE NEMINEM VERVS POTEST.
Aduersus pedibus premit, ecce, Cupido timorem.
Non trepidat duras res animosus amans,
Cui locuples satis est audacia testis amoris.
Degeneres animos arguit vsque timor.
セネカ◆ 愛が本物なら、何者にもひるまない。
見てごらん、アモルが恐怖心を脚で踏みつけている。
愛する者は剛胆になり、困難なことがあっても身震しない。
その勇気は、愛の信ずべき証たりうる。
恐怖✒を抱く心は、その卑しさまでも露呈する。
愛には恐れがない
ウサギは恐れを示し、そのウサギがアモルに踏みつけられているのがみえる。
愛の心は勇敢で、恐れで動じたりはしない。
愛は自分の恋人がどんなに愛しいかあらわし、
その証拠として、恐れのない心を出して見せるのだ。
❁図絵❁
アモルは右手を伸ばしながら勝利の印であるシュロをかかげる。左手に握った弓と左足で、仰向けになったウサギを押さえつけている。
❁参考図❁


カレル・ファン・マンデル (Karel van Mander)「スキーピオーの自制」1600年
ローマの将軍である大スキーピオー(孫の小スキーピオーと区別)が画面中央よりやや左側でシュロを持って岩の上に腰掛けている。当時ローマは、カルターゴーによるスペインの植民を排除すべく、カルターゴーと戦争状態に入っていた。弱冠26歳の大スキーピオーは、スペインの要衝カルタヘーナの奪還に成功する。この都市の長老たちは、戦勝祝いに将軍に乙女(画面中央)を貢ぐが、将軍はこの女性が婚約中と知り、婚約者(乙女の隣に立つ青年)を呼び寄せ、乙女を婚約者に返す。婚約者も恐れず進み出て、女性の手をしっかりと握っている。
〖典拠:銘題・解説詩〗
セネカ:『メーデーア』416行。英雄イアーソーンは、イオールコスで黄金の羊皮を王女メーデーアの助言と助力によって手に入れ、メーデーアと結婚する。後に二人はコリントスで暮らすことになるが、しばらくしてイアーソーンはコリントスの王女クレウーサと結婚し、メーデーアとは離婚する。劇はクレウーサとの婚姻の宴が始まった時点から展開する。きっぱりと捨てられたことを見せつけられたメーデーアは、怒り心頭に発し、ついには狂気に駆られ復讐を誓う。引用箇所は、この憤怒の女が、イアーソーンは脅されて王女と結婚しているのではないかと思いつつも、自分に対する愛があるなら自分以外の女との結婚はありえないと述べているところ。
典拠不記載:
〖注解・比較〗
恐怖:「恐怖心は素性の卑しい心を証明する」(ウェルギリウス[➽3番]『アエネーイス』4巻13行[➽15番])。カルターゴーの女王で寡婦であるディードーは英雄アエネーアースを歓待するが、そのトローイアの脱出行を聴き、この英雄に対して激しい恋愛感情を抱いてしまう。そして寡婦である自分の心が恋愛に折れてはならないと自分に言い聞かせ、またアエネーアースには恐怖心がまったくなく高潔な人間であるからなおさらだと自分を説得する。
恐怖心:「朝夕涼みもなき頃なれど、身も凍むる心地して、言はむ方なく覚ゆ」(源氏物語 若菜・下)。「夏の日の朝夕も涼しくない季節なのに、身も冷え凍る気持がして、言いようもなく悲しく思われます」(瀬戸内寂聴 訳)。光源氏の息子・夕霧の親友である柏木(太政大臣の息子)は、光源氏の妻である女三の宮に惹きよせられてしまう。その恋は強く、源氏の留守中にとうとう女三の宮との密通をはたす。ところがその密通が柏木が女三の宮に宛てた手紙から露見してしまう。その時の柏木の気分をあらわしているのが引用の文。この身も凍る恐怖心に柏木は取り憑かれ、ついには死んでしまう。
