◇愛のエンブレム◇ 57

Ouid     CELARI VVLT SVA FVRTA VENVS.

Tibull. En, ego cum tenebris tota vagor anxius vrbe,

Securum in tenebris me facit esse Venus.

オウィディウス     ウェヌス女神は秘密が秘密のままにとお望みだ。

ティブッルス     ほら、僕が暗闇にどきどきしながら町中をぶらぶらしても、

ウェヌス女神のおかげで、暗闇でも安全でいられる。

愛は暗闇を好む

 光があるところで愛の行為にふけるのは、アモルの好むところでない。

好むのは、どこか秘密の場所か光が差し込んでこないところで、

見られることなく、ウェヌス様の盗みを働くこと。

なにより美味しいパンは、こっそり盗んだものであるかのように。


❁図絵❁

女性が、真っ暗な岩窟のなかで目をつぶりながら、愛の行為を心待ちしながら座っている。その女性を、アモルが抱きながらやさしくキスをしようとしている。

❁参考図❁

ゴドフリート・スカルッケン(Godfried Schalcken)「ロウソクを持つ娘」1670-75年
豊かな髪の毛をかぶり物でとめ、真珠のイアリングをつけた女性がいる。この女性は、炎が風で揺れている太いロウソクで、暗闇の中を照らしている。まるで自分の方に来るように誘っているかのようだ。この女性は、画家の師匠の姪(ロウス・フェルデルカウスト)の肖像画だといわれている。画家はこの女に恋したが、女性の方ミイラに愛され、ミイラから逃げたが、ついには闇の中で殺されたという伝承がある。


〖典拠:銘題・解説詩〗
オウィディウス:[➽世番]実際にはティブッルス『エレギーア』1巻2歌36行[➽12番]。詩人の恋人である既婚婦人デーリアが夫によって家に閉じ込められたにもかかわらず、デーリア自らが自宅の扉を開け、詩人を中に入れてくれことになった。事がうまく運べば、召使いたちは詩人の姿を目にするので、彼らに向かって、デーリアが注意した言葉が銘題になっている。
ティブッルス:『エレギーア』(1巻2歌25-26行)。恋人に会おうと夜中の町を歩いても、女神が守ってくれているので、窃盗や刺客と出会うことがないといっている。なお26行目は後代に補われた行で、ティブッルス自身のものではないとされている。

〖注解・比較〗
暗闇:「むばたまの 闇のうつつは さだかなる 夢にいくらも まさらざりけり」(詠み人知らず『古今和歌集』647)「暗闇の中であなたとの逢瀬の現実にあなたに逢えたが、暗闇のなかでのはかない逢瀬だった。夢の場合には、実際にあなたに逢えないとはいえ、あなたの姿がはっきりみえる。あなたとの逢瀬は、現実と夢と比べて、どちらがよいのかわからない。こういいつつ、そのどちらも否定し、自然の風物などを愛でながらあなたとゆっくりと過ごしたいという恋人の気持ちをあらわしている。なお、「むばたまの」は「ぬばたまの」と同じく、黒、闇、夢、月の枕詞。


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