◇愛のエンブレム◇ 18

Empedocles.        CONSERVAT CVNCTA CVPIDO.

Ni cælum ac mundi totius machina Amore,

Concordi vnita ac pace ligata forent,

Omnia deficerent vinclis elementa solutis;

Cælum & terræ orbem, cunctaque seruat Amor.

エンペドクレース すべては愛によって保持されている。

宇宙全体の仕組みが、天と<愛>によって結ばれ、

 一つになって、調和のとれた平和とならなければ、

すべての元素は、その鎖を解かれて機能しなくなるだろう。

 天と全世界と、そしてすべてのものを、<愛>は守っているのだ。

すべては愛による

 小人の愛の神は、矢を使って天と地をくまなく

貫き通し、調和と一致をもたらす。

そのおかげで、愛がなければ不調和で混沌としていたものが、

互いに仲よく結びつき、がっちりひとつになっている。


❁図絵❁

 黄道十二宮帯によって象徴される大きな天球があり、その天球の中心には地球がある。天球の外を飛翔するアモルは、すでに天球に五本の矢を打ち込み、さらにもう一本、今まさに打ち込もうとしている。なお、地球を中心に太陽・月を含め七惑星が回り、その外側には原動天とよばれる殻があり、全体で天球となっているというのは、アリストテレスやプトレマイオスの宇宙観である。この宇宙観は、ガリレオの太陽中心説(1633年)が唱えられる以前の16世紀までは常識的考え方で、17世紀末に至っても支持されていた。

❁参考図❁

アルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)「黄道十二宮と天球を抱える女性」1502年

 宇宙の中心に不動の地球があり、天球に内接する外周には黄道十二宮が張り付いている。太陽を含めてこれらの星座は規則正しい運動を行い、地球に感応力(図中で光のように地球に注ぐもの)を及ぼしている。


〖典拠:銘題・解説詩〗
エンペドクレース:「あらゆるものは、愛において互いに欲しあい、集合する」(『断片』第1巻96番)。参考「エンペドクレースは、万物は次のように成り立っているといっている。『万物は愛において集合する……』。四大元素の調和と一致をエンペドクレースは愛と呼び、元素同士の対立を憎しみと呼んでいる」(プルータルコス[➽4番]『ホメーロスの生涯と詩』)。

典拠不記載:

〖注解・比較〗
エンペドクレース:〔前493年頃-433年〕いわゆる<ソクラテス以前の哲学者>のひとり。世界は四大元素(地・水・風・火)からなり、この元素を結びつける愛(philia) とそれらを分離させる憎 (neikos)の関係によって、世界の変転を説明した。彼の思想は、著作としてではなく、断片としてしか残っていない。なおルネッサンス期には『断片』はラテン語には訳されてなかったが、プルータルコス『倫理論集』にエンペドクレースの思想がかなり頻繁に紹介・記載されていたので、プルータルコス経由で彼の考え方は知れ渡った。
『ホメーロスの生涯と詩』: 〔2-3世紀頃〕ホメーロスの作品(『イリアース』、『オデュセイア』)が読み継がれているにもかかわらず、その生涯について比較的詳しく記述したものは、これが唯一。ホメーロスに特徴的な韻、修辞、文法例を次々と羅列し説明した後で、詩人が依拠していた世界観の解説に入る。そこで対立するもの同士の力のぶつかり合い(たとえば愛と憎しみ)が世界の様態であることをエンペドクレースの説として引用し、ホメーロスがこの説に基本的に準拠していたことを、神々の対立例を挙げて説明している。

愛によって保持されている:「大土(おおつち)は 採り尽くさめど 世の中の 尽くし得ぬものは 恋にしありけり」(万葉集 巻11 2442)。「大地でさえも、崩し採ってゆけばいつかは採り尽せるであろうが、この世の中で最も尽し得ないものは、恋というものである。」(佐佐木信綱 訳)。この世では恋心は無尽蔵に湧いてくるものと考えられているが、それは人間同士の関係のことであって、宇宙全体にまでそうした恋心(愛)が蔓延し、恋心によって宇宙が維持されているというスケールにまでには考えが及んでいない。


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