◇愛のエンブレム◇ 15

ILLE FVGA SILVAS SALTVSQVE PERAGRAT,FRUSTRA: NAM
Virg. HÆRET LATERI LETHALIS ARVNDO
Propert Quò fugis, ah, demens? nulla est fuga: tu licèt vsque
Ad Tanaim fugias, vsquè sequetur Amor.
Non si Pegaseo vecteris in aëra dorso,
Nec tibi si Persei mouerit ala pedes.
ウェルギリウス 彼は逃げて、森と山地を駆けめぐるが、無駄だった。それは、
脇腹に致命の矢がささっていたからだった。
プロペルティウス ああ、狂った者よ、どこへ逃げるのか。逃げても無駄だ。たとえ
タナイス✒まで逃れようと、ずっとアモルは追ってくる。
たとえペガスス✒の背に乗り天空にのぼろうとも、
ペルセーウス✒の翼を脚に付けて飛んでもだ。
逃げ遅れ
君はおろかな恋人なのだから、逃げたってもう無駄だ。
どこに逃げていいのかわからないのだから、走ってもなんの役にもたちはしない。
君が逃れようとしているものは、いかんせん、君の心の中にあるのだから。
どんな技を使っても、自分から逃げることはできやしない。
❁図絵❁
アモルの矢で胸を射られた男が、アモルに追いかけられ、不安にかられ捕まるまいと走って逃げている。アモルは笑い顔で悠々と、このあわてる男を追っている。
❁参考図❁

ヨアヒム・ウィテヴァール(Joachim Wtewael)「ペルセーウスとアンドロメダ」1611年
美貌を誇ったエティオピア王妃は、その高慢ゆえに海の妖精たちから怒りをかう。妖精たちの訴えにより海神は怪物を放ってエティオピアを荒らす。エティオピア王は、国を救うためには王女アンドロメダを海獣へ捧げるべしという託宣を受ける。たまたまこの重大事の場面に通りすがったのが英雄ペルセーウスであった。英雄は、この王女に一目惚れし、王女を妻としてくれるなら海獣を退治すると王に申し出る。王女の足下に転がるたくさんの髑髏や武具は、海獣退治に失敗したこれまでの勇者たちのなれの果てを教えている。にもかかわらず愛にかられたペルセーウスは逃げることなく海獣を倒すことを決断する。結果は、退治に成功、王女を救出し、めでたく結ばれる。
〖典拠:銘題・解説詩〗
ウェルギリウス:[➽3番]『アエネーイス』✒4巻72-73行。カルターゴーの女王ディードーのもとにトローイアの英雄アエネーアースは身を寄せる。アモルは、寡婦である女王の心のなかに、この英雄にたいする恋の炎をかき立てる。ウェルギリウスは、その女王の姿を、矢に射られた雌鹿に、英雄をその矢が当たったことに気づかない牧人にたとえている。なお銘題の冒頭からここまでが、すべてこの箇所からの引用になっている。
プロペルティウス:『エレギーア』2巻30a歌1-4行 [➽14番]。愛からはどこに行っても逃れられないことを、空間を飛ぶ神話に言及しながら述べている。
〖注解・比較〗
タナイス:現在のドン河。ヨーロッパとアジアを分ける境と考えられていた。またタナイスには女性部族アマゾンが住んでいるとも考えられていた。
ペガスス:勇者ペルセーウスが怪物メドゥーサの首を切り退治したとき、その血から生まれた有翼の馬。
ペルセーウス:ユッピテル大神[➽10番]が人間の王女ダナエーと交わって生まれた子。「動く翼によって、澄んだ天空をあえて切り進んだ」(オウィディウス『変身物語』4巻669-700行[➽世番])とあり、メルクリウスのように、彼の履くサンダルには翼が付いていると考えられていた。この英雄の物語は、オウィディウス『変身物語』(4巻604-803行)に詳しい。
『アエネーイス』:全12巻約1万行からなる長大な叙事詩で、ローマ文学の最高峰をなしている。最初の6巻では、主人公アエネーアースが、ギリシア軍によって陥落したトローイアから脱出し、国を新たに再興すべく、アフリカやシシリアなどを船で遍歴することが語られる。そして残り6巻では、イタリア半島に上陸して、先住民と戦い勝利を収め、ローマとして再興する礎を築くことが歌われている。ルネッサンス期には叙事詩の手本としてホメーロスよりも偉大な作品として仰がれた。
追ってくる:「空蝉の 身をかへてける 木のもとに なほ人がらの なつかしきかな」(源氏物語 空蝉)「あなたは蝉が殻を脱ぐように、衣を脱ぎ捨てて逃げ去っていったが その木の下でやはりあなたの人柄が懐かしく思われますよ」(渋谷栄一訳)。光源氏が空蝉に贈った歌。源氏は、人妻である空蝉を恋するようになる。空蝉が継娘と碁を打っている姿を垣間見て、その夜、源氏は空蝉の寝室に忍び込むが、気配を感じた空蝉は薄衣を脱ぎ捨てて逃げ去る。寝室には継娘がいたが、空蝉が去ったことを知らない源氏はこの娘を空蝉と思い床をともにする。しかし朝になり人違いと気づき、薄衣を家に持ち帰り、空蝉を追うべく、彼女への恋を引用のように歌った。贈られた歌を詠んだ空蝉の方でも、逃げ去ったとはいえ、源氏への恋心はやはり捨て去れなかった。
