◇愛のエンブレム◇ 36

NOCET ESSE LOCVTVM.

Labra premens digitis Amor, interdicit amare,

Hunc, qui rimosum pectus habere volet.

Ouid.   Praecipuè Cytherea iubet sua sacra taceri:

Admoneo, veniat ne quis ad illa loquax.

語ってしまえば害が及ぶ。

アモルは指で唇を押さえながら、心にひびが入れと

願う男は、愛してはならぬ、と教えている。

オウィディウス   キュテーラ島の女神は、とりわけご自身の儀礼について黙秘するよう命じている。

忠告しておくが、おしゃべりな者は誰であれ、女神祭への参加は禁じられている。

愛の秘訣は沈黙にあり

 桃とカモは、沈黙をあらわす。

愛する者はその愛に沈黙を守るようにしなくてはいけない。

愛する者が愛について語れば、自分の心を漏らしてしまうが、

愛しながらも沈黙を守れば、愛は探り当てられない


❁図絵❁

 アモルが正面を向き、左手の親指を唇に当てて、沈黙を守るように勧めている。アモルはまた、葉と小さな桃がついた枝(誠実の象徴)を手に持っている。足下には口に石をくわえているカモがいて、目を正面に向けて、自分に(なら)うように教えている。

❁参考図❁

ヤン・ダーフィッツゾーン・デ・ヘーム (Jan Davidsz. de Heem)「静物画」」1660年代

 石板の上に山のように盛られているのは、ざっと見ただけでも桃、栗、ブドウ、ブラックベリー、バラ、カーネーションといった果物と花々。これらは黙して何も語らないかのようだ。しかし桃の皮は破れ、カーネーションは力なくたれ、葉も色あせ枯れかかっている。永遠なものは神の言葉のみ、この世の富も栄華もやがて朽ちることを教えている。そして朽ちるもののなかにはバラ(愛の象徴)も含まれている


〖典拠:銘題・解説詩〗
典拠不記載:実際にはディオニューシウス・カトー「黙っていれば誰にも迷惑がかからないが、語れば害が及ぶことになる」(『カトーの二行句集』1巻12番2行)。

典拠不記載: オウィディウス:[➽世番]『恋愛術』2巻607-608行[➽2番]。オウィディウスは、男性は女を寝取ったと吹聴してはならないと警告し、そこでウェヌス女神のこの事例を引き合いに出している。

〖注解・比較〗
:「ひびが入れ」とは、心のなかに秘密をしまっておけず、外に秘密を漏らしてしまうこと。
キュテーラ島の女神:エーゲ海の島でウェヌスの神殿があったことから、ウェヌス女神の別名になっている。
:「この木の葉は人間の舌をあらわし、その実の形は人間の心をあらわす」(ピッチネッリ『象徴の世界』584ページ)。桃は、口で語ることと心の中で思っていることとの一致をあらわしている。なお、桃の葉は、沈黙と秘匿の神ハルポクラテースへの捧げ物であった。
カモ:「トロス山脈[トルコ南部の山脈]を越えて飛ぶカモは、嘴に石をくわえるのが常であるが、それはくわえることで声を出さないようにして、この山脈に住むワシたちに存在を気づかれず、その爪の餌食とならないためだ」(ピッチネッリ『象徴の世界』261ページ)。
『カトーの二行句集』:ディオニューシウス・カトーという名で呼ばれる作者〔3-4世紀頃〕によって格言、警句が集められ、そこに後代の人々によって加筆が施されてできあがった句集。題名の通り、各格言・警句は二行で一つのまとまりをなすようになっている。この句集は、中世からルネッサンス期にかけて、ラテン語を学校で習得する際の教科書としてよく用いられた。

語ってしまう:「言はぬをも 言ふにまさると 知りながら おしこめたるは 苦しかりけり」(源氏物語 6 末摘花(すえつむはな))。「何もおっしゃらないのは口に出して言う以上なのだとは知っていますが、やはりずっと黙っていらっしゃるのは辛いものですよ」(渋谷栄一 訳)。光源氏が、悲劇的な「深窓の令嬢」と思い込んだ末摘花に対して詠んだ歌。源氏は何度も歌を贈るが、返事がもらえなかったために、とうとう彼女の家にあがりこみ、返事がないことのつらさを姫に訴える。その時の歌。しかしそれでも姫は「黙秘」を続けたために、源氏は姫からの直接の返事がもらえず、その場を引き下がる。後に、源氏はその意を遂げてこの姫君と契りを結ぶが、あるとき、この女性の顔が不細工なことを発見し驚き呆れる。


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