◆二元対立の英語感覚◆《実践・済 ⇔ 未・実践》動名詞と不定詞の微妙な違い
動名詞⇒一般的な行為→実践済み
不定詞⇒仮想の行為→これからの実践
動名詞は「名詞」なので、一般的な行為をあらわしています。ちょうどパソコンという名詞が、ディスクトップ、ノート型(英語ではlaptop)、タブレットなどいろいろなものを一括してあらわせるのと同じです。つまり動名詞は行為を概念としてあらわせるのです。だから、 “Seeing is believing.” (百聞は一見にしかず)といったことわざのように、行為を一般の概念(イメージ)としてあらわす文では、動名詞が使われるのです。
(1) Be slow in choosing, but slower in changing.
選ぶときはゆっくり、変えるときはもっとゆっくり。
見る seeing にしても選ぶ choosing にしても、いまここで現実に行っていることではなくて、頭の中に描いている行為の一般概念です。
ところが動名詞の親戚のように似たような使われ方をする不定詞は、不定とあるように、品詞が定められません。実際、不定詞は名詞・形容詞・副詞として使われます。そして不定詞が名詞として使われるときには、動名詞と同様に一般的な行為を概念としてあらわせるのですが、そこには「もし~するとするなら」という仮定の意味が入ります。これは不定詞の to の意味が生きているからです。 to ~は「まだ未到達の~に向かって」ということなので、to不定詞の名詞用法は、もし~することがあるならというニュアンスがともないます。
(2) To hear him talk is to be captivated by his charm.
彼が話すのを聞くと、その魅力の虜になるよ。
いまここで彼が話すのを聞いているわけではありません。頭の中で彼が話すことを一般概念化しているわけですが、ここにはあなたがもしも彼が話すのを聞くとするならば、という意味が含まれています。これは動名詞にはみられない意味合いです。
では動名詞と不定詞を使った次の文では、どういう違いがあるでしょうか。
(3) I don’t like driving on snowy days.
(4) I don’t like to drive on snowy days.
雪の日の車の運転はやりたくない。
(3)は動名詞で、行為を一般の概念化しているわけですから、雪が降っていたら、ともかく車の運転はやめたいといっているわけです。状況としては、北海道や東北の人が冬の話でもしているときに出てくるセリフです。ところが(4)は不定詞ですから、運転するという「まだ未到達の行為に向かって」ということで、もし雪が降るようなことがあったら、運転はしたくないということです。 (4)はめったに雪は降らないが霧がよくかかる鹿児島の人が、霧の中の運転は何でもないが、雪となるとちょっとねという感じです。
次に動名詞はingがつきますが、ingに注目すると、ingにはすでに行っている行為というニュアンスがあります。それに対して不定詞は、to の「まだ未到達の~に向かって」という意味が生きて、これから実際にやるのかどうかは曖昧のままです。
注 動詞に-ingが付くと、英語では動詞は、動名詞か現在分詞か、2種類のどちらかの働きをします。しかし動名詞のingと現在分詞のingは、形こそ今では同じですが、中英語・古英語では区別がありました。つまり、かつては動名詞と現在分詞は異なった形をしていたのです。すでに行っているという意味をもつのは現在分詞です。ところが英語では現在分詞と動名詞の形が同じために、動名詞にすでに行っているという意味合いがすべりこんだのだと思います。
(5) I tried waking up my wife sleeping like a log, as the doorbell rang at five in the morning.
今朝、家のインターフォンが5時に鳴ったので、熟睡している妻を起こそうとしてみた。
(5)は動名詞ですから、寝ている妻の体をゆするなり、なにかをして「起こす行為をすでに行った」ということです。
(6) I intended to explain to her why I stood her up last Saturday.
この前の土曜日に、どうして約束をすっぽかしたのか、彼女に説明しようとした。
「説明しようとした」という訳語からもわかるように、 (6)の不定詞の場合には、意図していた intended の 時点で、「説明しよう」というまだやっていない行為があったのです。意図していて、「説明する」という行為をその後、実際にやったのか、やらなかったのかは曖昧です。だから(6)の場合には、説明しようとしたが、いきなり電話をきられて、説明しなかったのか、意図していたとおりに、説明したところ、彼女が納得してくれたかという2つの異なる可能性があります。
動名詞と不定詞の違いがわからないために、それこそ曖昧な文を私たちは書いてしまうことがあります。
(8) We went to Kyoto to see the autumn foliage yesterday.
☠ 昨日、京都へ行って、紅葉を見てきました。
この文では、紅葉を見るために京都に行ったのですが、では実際に紅葉を見たのかどうかはto seeとなっているために曖昧です。京都に行ったが、紅葉のきれいなお目当てのスポットは混んでいたのでやめたのかもしれないのです。だからもしも実際に紅葉を見たといいたいならば、
(8) We enjoyed seeing the amazing autumn foliage at Zenrinji temple in Kyoto yesterday.
このように動名詞であらわす必要があります。
動名詞と不定詞との間の違いがわかってくると、
(9) Having a job you like is a good thing.
自分の好きな仕事ができるのは、すばらしいことだ。
これは、もうすでにそういう仕事をやっている人に向かっての言葉です。これに対して、いまから好きな仕事を見つけようとする相手に向かって、私が言うときには、
(10) It is a good thing to have a job you like.
となります。
この(10)の例文の形は、私たちのよくみかける “It is ~ to 不定詞…” になっています。この形は、「もしも…すると、それは~だ」ということです。だからつぎのことわざも、確かに一般論なのですが、
(11) It is easy to find a thousand soldiers, but hard to find a good general.
兵隊さんを千人集めるのは容易、よい大将を見つけるのは至難。
ここにも、もしも集めるとすれば、そしてもしも見つけるとすればというニュアンスがあります。
最後に、私はネイティブに英文をチェックしてもらうとなぜだかよくわかりませんでしたが、名詞を動名詞を使ったフレーズに直されることがありました。
(12) Thank you for the information about a big discount on Amazon PrimeDay.
(13) Thank you for telling me about a big discount on Amazon PrimeDay.
アマゾン・プライムデーの大幅割り引きについての情報ありがとうございました。
私たち日本人の感覚ですとどちらも同じということになりますが、ネイティブにいわせると、ここをinformationという名詞でひとつの観念として述べてしまうと、相手がやってくれたというニュアンスが薄くなってしまうそうです。 -ing はすでにやったという既存の行為の意味があるわけですから、もうすでにやってくれている、なんと君は親切なというニュアンスが出てくる動名詞の方がこのような場合には好印象を与えるのです。
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