◆二元対立の英語感覚◆《確定事実⇔話者の気持ち》will は未来をあらわすのか
will: 意志と主観的な100%の確信
英語教師が笑ってしまう例文があります。女性が友達に話をします。
I have met a nice man at a party
この女性はがっかりした顔をして話していることは英語教師はみんな知っています。というのは、これに続く例文がいつも決まっているからです。
but he’ll marry soon.
大人向け英語テキストで現在完了( I have met) を説明するときには、どういうわけか、この例文がかならずでてきます。すでにその「すばらしい男性」と会って、その残像も生々しいので、ここでは過去形ではなく現在完了形を使うというわけです。
しかし私たちにとっておもしろいを飛び越して、奇妙なのはこの男の人についてです。その男性は「将来すぐに結婚する」と、この女性はいっているのではないということです。そんな馬鹿なことはない。will は未来をあらわす助動詞、もっと簡単にいえば、未来形であることを示す記号ではないか。だから当然ここの意味は、「将来すぐに結婚するだろう」という未来のことを表しているのだと。しかし残念ですが、英語には未来形はありません。過去形は動詞の末尾にed がついて動詞の形が変わり、これは過去形だという活用形があります。ところが動詞が未来をあらわす場合には、なにか末尾について形が変わるわけではありません。だから英語には未来形はありません。こういうと、「過去形だって覚えるのが大変だったのに、未来の場合も動詞の末尾を変えるというのですか。willは面倒くさい活用を全部吹き飛ばして、未来をあらわしてくれている。何の文句があるの!」。
文句があります。それでは “he’ll marry soon.” は本当に「その男性は将来すぐに結婚する」なのでしょうか。この女性に聞いてみると、真っ赤な顔をして怒られます。「将来結婚する」などと客観的なことをいった覚えはない。それでは私のせっかくのこの素敵なチャンスが完全につぶれてしまったことを告白していることになる。私のいっているのは、「結婚するつもりだ」、そう、この男性がそういう意思があるといっているだけです。もしかしたら私が積極的にアプローチすれば、この男性の意思が変わるかもしれないという一縷の望みがあるのです。
なぜ「その男性は、結婚するつもりだ」となるかといえば、will のもともとの意味は、その名詞の意味からもわかるように「意思」です。ですから彼の意思はなんなのかが、will のすぐ後で説明されます。そしてすでに助動詞の説明のところで述べたように、will は客観的証拠なしの主観的な100%の確信です。ですから、「近々、彼は結婚するつもりだ(と私は確信している)」というのが、この文の意味なのです。彼が結婚する未来の時がやってくるということではなく、この男性自身が結婚するつもりになっていることを、この女性はいっているのです。
willの基本は意思だとわかると、次の文も誤解せずにその意味を取ることができるようになります。
I’ve asked her, but she won’t come.
私は彼女にもうすでに来るようにお願いしたのだが、「彼女はやってこないでしょう」ではなく、「彼女は来るつもりがない」ということです。
次の文はどうでしょうか。買い物に行こうと、彼女とともに車に乗りこみました。キーを挿してエンジンをかけようとします。ところがなんどエンジンをかけようとキーをまわしては戻し、まわしては戻ししても、エンジンはかかりません。そこで私は助手席にいる彼女にいいます。
I have turned the key and tried to start the car several times, but it will not start.
「車は将来、動かないだろう」ではなく、現に今動いていないのですから、「動こうとはしない(と私は判断しそう確信している)」となります。ここでは無生物である車がまるで生き物であるかのように、話し手である私は感情移入しているわけです。
では調子が出てきたところで、もうひとつ確かめてみましょう。
This quantity of lasagne will feed six people.
このラザーニャ(生まれ初めて、オーブンからできたてのラザーニャを食べたときの感動は忘れません)はちょっと小さめに見えるけれども、この量は、「六人分となるでしょう」ではなく、「六人分になるはず(と私は確信している)」。量に意思があるのは奇妙に思えるかもしれませんが、話し手がこの量は何人分になるつもりなのかを、まるで量が意思を持った生き物であるかのように主観的に推測して、こういっているわけです。
なお能動態―受動態という枠組みをもつ西欧語では、意志の存在の有無、主体の意志がどのように働いているかが常に意識されます(中動態の世界)。
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